大和鋼管工業株式会社-工場のiPhone&iPadと全社Macを管理 老舗鋼管メーカーが進めるJamf Pro活用

建設現場の足場や農芸ハウスなどに用いられる亜鉛メッキパイプの製造・販売を行う大和鋼管工業株式会社では、業務用パソコンとしてMacを全社導入するほか、iPhoneやiPadなどのモバイルデバイスも活用しています。その端末管理に使われているのが、Jamf ProやJamf ProtectといったJamfのソリューションです。クラウドベースの業務環境を整えるなど、製造業としていち早くIT化を進める同社の取り組みをレポートします。

製造業でMacを全社に導入
Jamf ProとJamf Protectの活用
iPhone, iPadで工場での業務をIT化

Jamf Pro導入の経緯 -iPhoneとiPadの管理のために-

●「グローカル戦略推進」の役割

大和鋼管工業株式会社(以下、大和鋼管)は、さまざまな産業や人々の暮らしに欠かすことのできない鉄パイプ(亜鉛メッキパイプ)を昭和7年(1932年)の創業以来作り続けてきたメーカーです。世界的に見ても非常に環境に優しい、独自の方法で製造されるエコで高品質な同社のパイプは、建設現場の足場や仮設構造物、農業用ハウスの骨格、新幹線やビル内の電線管、道路標識の支柱、さらには公園の遊具やベッドフレームなど多彩な用途に用いられています。

現在の社員数は170名(2021年7月現在)。本社は栃木県さくら市にあり、営業拠点として東京や大阪、名古屋、仙台、福岡に支社を置くほか、ベトナムやインド、アメリカにも関連会社を設置。近年は、創業時から培ってきた製造・販売ノウハウをIoTやビッグデータ、AI等の最先端のIT技術を活用して進化させ、製品や操業システムの世界展開を進めています。

大和鋼管の歴史は、昭和7年(1932年)に創始者・中村留市が大阪市大正区に中村巻パイプ製造所を創業したことに始まります。そして1944年に同製造所が法人組織化するにあたり、現在の社名に改称されました。

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また、生産技術やノウハウに関わる情報をWeb化したり、社員全員にiPhoneを支給したりすることで社内・工場内のどこにいても情報にアクセスできる環境を整えるなどして社内のデジタルトランスフォーメーション(DX)を図り、日本の製造業の中でもいち早く「新しい働き方」を推し進めています。

大和鋼管においてそうしたミッションを担当しているのが、「グローカル戦略推進」部に所属する7名のメンバーです。グローカルとは、グローバル(Global)とローカル(Local)を掛け合わせた言葉。地域に根ざした企業でありながら、同時に国際的に事業を展開する企業を目指していくという思いが込められています。

大和鋼管の本社ならびに本社工場は、栃木県の中部に位置するさくら市にあります。そのほか大阪、名古屋、仙台、九州に支店や営業所を構えるほか、ベトナムやインド、アメリカにも拠点を設定しています。

「部署としては社長室の所属となり、国内外企業との事業連携やマーケティング、事業提案、社長のサポート業務などを行っています。また、情報システム部門の役割も兼ねており、私を含む3名で担当しています。国内外オフィスのシステム開発や構築、運用、保守に加えて、最近ではGCP(Google Cloud Platform)やAWS(Amazon WebServices)といったクラウドプラットフォームを活用したIoT事業や、AIやビックデータを活用することで工場における操業の最適化を行っています。もちろん、社内のインフラ整備や運用、保守のほか、サポート&ヘルプデスク、そしてiPhoneやMacをはじめとする業務端末のキッティングや運用管理なども行います」(社長室 グローカル戦略推進 課長 堀井宏紀氏)

●工場でも使われるiPhone&iPad

多彩な業務を行うグローカル戦略推進でJamf Proを使い出したのは、Jamf Proがまだ「Casper Suite」という製品名で呼ばれていたときのこと。社用端末として導入するiPhoneを機種変更するのに伴い、導入しました。

「2016年2月頃から検討を始めて、半年後には使用開始しました。それ以前に使っていたキャリアのMDMはインベントリ収集やアプリ配布のレスポンスが悪く、使いにくかったからです。Casper Suiteはレスポンスが早く、ユーザインターフェイス(UI)も抜群でした。また、当時からApple製品のOSがアップデートした際の『同日サポート』を実現していましたので、従業員が端末のOSをアップデートしてしまったとしても問題が起きないのが大きなメリットでした」(堀井氏)

現在、大和鋼管で導入しているiPhoneの数は約200台。全従業員が社用携帯として利用するほか、工場内の業務にも活用しています。

「たとえば、製造ラインが止まってしまったときに『あなたの担当の機械の数値がおかしいですよ』などと専用アプリを使って個別に連絡しています。これはiPhoneを全員が持っているから実現できたことです。工場の中で作業に集中しているときは電話に出ることができませんから、手を休めたタイミングですぐに対応できるよう通知を送るのです」(堀井氏)

また、工場ならではの使い方としてJamf ProによってiPhoneの特定の機能を制限することもしています。

「工場の中での撮影に関してはiPhoneの純正カメラの利用を禁止しており、サードパーティ製の高セキュリティのカメラアプリを用いて、iPhoneで撮影した写真はすべてクラウドにアップロードして管理しています」(堀井氏)

大和鋼管が製造するエコで高品質なパイプは、建設現場の⾜場・仮設構造物や農業⽤ハウスの⾻格などのインフラ整備や、公園の遊具やベッドのフレームなどの生活に身近なものにまで幅広く使われています。

「エコなパイプで栃木から世界へ!」。本社工場建置には、創業時から培ってきた独自技術と工夫が詰まった製品や操業システムを世界展開していきたいという同社のビジョンが掲げられています。

さらに、大和鋼管では工場内の機械の整備状況や故障状況などを記録するためにiPadも導入しています。

「iPadは工場の担当者に渡して、主に機械のモニタリングに使用しています。一連の造管作業の中で機械がいつなぜ壊れたのか、どのように対応したかなどを専用アプリで記録するためです。また、iPadは製造工程のマニュアルや手順書を参照するのにも用いています。もちろん、これらのiPadもJamf Proによって管理しています。Jamf Proを使えばiPadの使用状況を確認できるので、たとえば工場の机の中に眠っている端末を特定できるのがとても便利ですね。使われていない端末をほかの従業員に割り当てたりすることで、無駄なリソースを減らすことができます」(堀井氏)

社長室 グローカル戦略推進 課長堀井宏紀 氏

業務用パソコンをMacにした理由 -さまざまなメリットがあるMac-

●Macなら新入社員も喜ぶ

こうしたいち早いモバイルデバイスの活用に加えて、大和鋼管で特徴的なのが「Macの全社導入」です。とかく製造業では業務用パソコンとしてWindows PCを導入する企業が多い中、大和鋼管では全端末をここ数年でWindows PCからMacへと入れ替えました。現在は110台のMacBookシリーズを導入しており、一部業務上の理由からWindows PCとの2台持ちの従業員は残っているものの、業務用パソコンを利用するすべての従業員にMacを配付しています。

「Macの導入は、代表取締役社長(中村慎市郎氏)の鶴の一声で決まりました。もちろん最も重要視したのはMacのUIの良さが実現するユーザビリティとハードとOSをシームレスに自社開発することで実現する安定性とセキュリティの高さです。そのうえでさらに効果的なのはAppleというブランド力。学生がはるばる栃木まで面接に来たときに役員をはじめとする面接官全員がMacを使っていたらかっこいいですし、就職イベントやセミナーなどで人事担当者がゴールドやピンクのMacBookを持っていたら目立ちますし、『そんな製造業の会社はほかにはないだろう』という理由からです。社長は『常にチャレンジ』をモットーとしているので、Appleなどの新しいモノやコトが大好きなのです」(堀井氏)

大和鋼管のホームページには、同社の最大の強みは「安全・品質・技術」ではなく、それを作り上げている従業員であり、何よりも「人財」をもっとも大切にしていると書かれています。また、「代表からの挨拶」には「世の中の為になるコトを自ら考え、グローカル(グローバル+ローカル)に仲間と共有し、なりたい自分になる為に行動する。そんな取組を我々が毎日たずさわっている事業の中で実現する事で、世の中を昨日より少し安全/安心で、人々がより健康にハツラツと活躍できる場所にして行きたいと思います」という一文があります。製造業で目新しい「100%Mac」の環境は「人財」を一番に考え、挑戦を忘れずに楽しく仕事に向き合ってもらいたいという社長の思いからであることが窺えます。

社用携帯として導入したiPhoneは、現在は工場内の業務にも利用しています。その管理のために以前はJamf Proの前身であるCasper Suiteを用いていました。

iPhoneやiPadといったモバイルデバイスに加えて、大和鋼管ではMacも導入。業務用パソコンを利用するすべての事務職員が日常のさまざまな業務に活用しています。

「Macを導入したことへの反響はとても大きいです。特に日本では学生の頃からiPhoneに慣れ親しんでいることもあり、新入社員に使い回した中古のWindows PCではなく、新品のMacを手渡すととても喜んでもらえます。Macには『使わせている感』ではなく、自分のものとして『使ってもらえる感』がありますよね」(堀井氏)

Macはグローカル戦略推進でキッティングしてから従業員に配付しますが、そのときには一度剥がしたMacの外装フィルムを丁寧にきれいに戻すなど、できるだけ新品の状態に近い状態で渡すことを心がけているそうです。

Google Workspaceなどを用いて業務のクラウド化をいち早く推し進めていたことで、Macへ移行しても日常業務に大きな支障はなかったと言います。

●Macは業務にも使える

業務用パソコンをWindows PCからMacへ乗り換える際には、一般的に「操作感の違い」や「アプリケーションの移行」などが問題になりがちです。大和鋼管では業務上苦労したことはなかったのでしょうか。

「もちろん、最初は困ったこともありました。たとえば、Microsoft Office AccessとExcelを連係させた業務データはMacではうまく扱うことができないなどです。しかし、『Macでできないこと』を探すのはとても簡単で楽な仕事だと思います。ですから、私たちは『Macでできること』を考え、少しずつ課題を解決していきました。また、Mac導入前からGoogleWorkspaceを活用して業務をクラウドベースで行えるようにしていたことも奏功しました。Webブラウザさえあれば仕事をできる環境を徐々に整えていたので、実際はMacに変えてそこまで大きな問題があったわけではありません」(堀井氏)

現在、大和鋼管では売上データや日程表、資料の作成・共有等にはGoogle Workspace、勤怠管理や経費管理、給料計算等にはSaaSで提供されるクラウドサービスを用いることで、ほぼすべての業務がクラウドで行えるようになっています。

「グローカル戦略推進では幅広い業務を行っていますので、すべての業務システムを自分たちで管理することはできません。やはり運用管理やセキュリティ、費用面を考えると自社で管理する必要のないクラウドサービスを利用したほうがはるかに利便性が高いと思います」

Jamf Pro導入のメリット -Apple製品を一元管理-

●Macを使う前に管理方法を習得

そうしたクラウド化が進む大和鋼管において、iPhoneの管理のために導入していたクラウドベースのJamf ProをMacの管理にも利用するようになったのは自然の流れだったと言えます。

「Windows PCを使っていた頃は社内にWindows Serverを立てて、Active Directoryによって管理していました。Casper Suite導入時はWindows PCを利用していましたが、将来的にMacを導入するような話が出ていたのでWindows PC向けのMDMの導入は考えませんでした。あくまでMacを念頭に管理ツールを検討したところ、すでに導入していたJamf ProでMacも一元的に管理するのがもっとも効率的だと思ったのです」

とはいえ、Jamf ProによるMacの管理は初めてのことだったため、堀井氏はMac導入以前にJamfが提供するトレーニングコースを受講したと言います。JamfではJamf ProによるApple製品の管理手法をセルフペースで学ぶ「Jamf 100」や、対面またはオンラインによってインストラクターが教える「Jamf 200」などを用意しています。

「それまでMacを触ったことがなかったのですが、macOSの基礎知識や実機を使ったJamf Proでの管理方法をひととおり学ぶことができたので、Mac導入後はスムースに管理業務を行えました」

大和鋼管では、現在iPhoneとiPad、Macのデバイス管理のためにJamf Proを利用しています。

●初めてでも使いこなせる

Casper Suiteの頃からJamf ProでiPhoneの管理を行い、Mac向けのトレーニングも受講した堀井氏に対して、企業の情報システム部門に初めて所属し、特別な知識なしにいちからJamf Proを使い出したのが、2020年4月にグローカル戦略推進に配属された中山優美氏とトルーシャイト・スヴェン氏です。

「中山さんにJamf Proの使い方を教えたのは実は1カ月前のことですが、Apple Business Manager上でのアプリの購入やJamf Proでのキッティングといった一連のMacの運用管理はすでに1人でできるようになっています。それを考えるとJamf Proはとても簡単に使いこなせるツールだと思います」(堀井氏)

「最初はJamf ProでどのようにMacやiPhone、iPadを管理しているかがわからず、理解するのに時間が必要でした。たとえば、『プロファイル』や『プレステージエンロールメント』などという言葉は聞いたこともなかったですから。ただ、使っていくうちに次第に慣れ、今はJamfProがいかに便利かを実感しています」(社長室 グローカル戦略推進中山優美氏)

「出身国のドイツでは電気製品のアフターサービスを行う会社に勤めていました。Macを使ったことはありませんでしたが、Jamf Proはインターフェイスがわかりやすいですし、英語がわかれば理解しやすいメニューも多いのでとても使いやすいです」(社長室 グローカル戦略推進 トルーシャイト・スヴェン氏)また、世界最大のApple ITコミュニティである「Jamf Nation」を通して、Jamf Proを使ってAppleデバイスを管理する世界中の専門家や仲間とさまざまな情報交換を行える点も魅力だと言います。

「国内のみならず、当社では海外拠点のヘルプサポートも行っています。たとえばOSのアップデートなどで問題が起きたとき、JamfNationを利用すれば自分たちでトラブルシューティングするよりも素早く問題解決できます」(スヴェン氏)

デバイスのインベントリ収集をはじめ、Appleデバイスを一元的に管理できるのがJamf Proの魅力。直感的なUIなので、初心者でも使いやすい点を評価しています。

手間のかからないキッティング作業 -厳格なポリシーによる制限-

●Jamf Proでの短時間でのキッティング作業

グローカル戦略推進ではMacのキッティングを行うにあたり、Apple の「自動デバイス登録」の仕組みを利用した、いわゆる"ゼロタッチ導入 (ゼロタッチキッティング)"はあえて行っていません。

「なぜなら従業員のITリテラシーのばらつきが大きいからです。従業員 は18歳から70歳まで幅広い年代の方がいますので、人によってはパ ソコンに不慣れな人もいます。ゼロタッチ導入を行うには端末がWi-Fiに接続している必要がありますが、中にはWi-Fiに入れない人などもいるため、私たちのほうですべてセットアップしてから渡すようにしています」(堀井氏) ただし、ゼロタッチ導入を行わなくても、Jamf Proを使えば短時間で キッティング作業を行うことができるので負担には感じていないと言います。

「Windows PCを配付する際は1カ月単位で事前に計画する必要が ありました。実際の作業はキッティング業者に頼んでいたのですが、それでも事前にポリシーを用意したり、書類を作成したり、イメージを用意したりするのに大変な時間がかかりました。一方でJamf Proによる Macのキッティングは週単位で計画できます。キッティングに要する時間は5分の1以下になりました」(堀井氏)

「初期に導入したMacがリプレース時期に入っているので、ちょうど今25台のMacのキッティングを行っています。Jamf Proの使い方を教えてもらいながら進めたので1〜2週間くらいはかかりましたが、慣れてしまえばキッティング作業は10分もかからないと思います」(中山氏)

「海外の拠点にあるMacの端末管理を主に私が担当していますが、現地で購入してもらった端末に対してワイヤレスで構成プロファイルを 適用できますので、まったく手間はかかりません」(スヴェン氏)

●Jamf Proならすべてコントロールできる

Macのキッティングに際しては、ITリテラシーの異なる幅広い年代の 従業員がいるという理由から自由度を与えないように端末に厳しい 制限をかけるようにしています。

「iCloudの利用やアプリのインストール、OSのアップデートなどを制限、管理したり、基幹システムにアクセスするWebブラウザのバージョンを固定したりなど、ポリシー管理は厳しくしています。コンピュータやITに詳しい人、またはよくわからない人はルールを守ると思うのですが、 中途半端に知っている人ほど変に操作してしまってトラブルの原因になるからです」(堀井氏)

「業務に利用する基本的なアプリも、私たちのほうでインストールして います。Jamf Proの『Self Service』の機能を使って従業員自らが必 要に応じてアプリをインストールできる環境を整えていますが、Self Serviceに登録しているのは一部のコミュニケーション系のアプリくらいです。また、アプリやOSのアップデートに際しては、Jamf Proで強制的に最新版にアップデートするようなポリシーを作成することで、従業員の作業負担を減らしながら問い合わせが発生しないようにしています」(中山氏)

購入したMacはグローカル戦略推進でキッティング作業を行ったあと、従業員へ配付しています。あらかじめ構成プロファイルを作成しておくだけなので、ゼロタッチ導入をしなくても、キッティング作業は業務の大きな負担にはなっていません。

デバイスを利用する従業員のITリテラシーのばらつきがあることから、誤操作による故障やトラブル、またはそれに伴う問い合わせ等を減らす目的で、デバイスには厳しいポリシーをかけています。

特にMacに関しては、AppleのMDMフレームワークに加えて、Jamf Proであればスクリプトによって、システムレベルのタスクを実行できるところが魅力だと言います。

Jamf Proに加えて、Jamf Protectも導入することでMacのエンドポイントセキュリティを担保し、さまざまな脅威からMacを保護しています。

Jamf Proは標準的な端末のロックやワイプ以外にも豊富なリモートコマンドを搭載するほか、Macの場合はJamf が独自に提供するエージェントの機能を利用することで、Appleが提供するMDMフレームワーク内の設定に加えて、独自のスクリプトの実行やパッケージのインストールといったシステムレベルのタスクを実行できるのが特徴です。

「コマンドやスクリプトを使えばMacのすべてをコントロールできる点がJamf Proの素晴らしい点です。たとえ端末に問題が起きたときも、遠隔から強制的に設定など書き換えてしまうことができるので運用管理がとても楽なのです。"端末を制限する"と聞くと悪い印象を持つかもしれませんが、端末を『好き勝手に使わせないこと』は、言い換えれば『安心安全に使ってもらえること』につながるため、とても重要だと思います」(堀井氏)

リモートワークへのスムースな移行 -Mac+Jamf Proだから可能に-

●Active Directoryはいらない

Macを全社導入してJamf Proで管理。製造業では希なこうした環境を実現したことによるメリットの1つとして挙げられるのが、リモートワークへの移行のしやすさです。一般的にリモートワークを実現するために業務用パソコンを自宅(社外)

へ持ち出す場合は、社内システムにアクセスするためにVPNを設置したり、社外からのネットワークアクセスを制限したり、端末の紛失や盗難などに対するセキュリティ対策を施す必要がありますが、大和鋼管ではそうした対応に迫られることがなかったのです。

「コロナ渦によってリモートワークに移行する際は、MacBookやiPhoneをそのまま自宅へ持って帰ってもらうだけで、会社にいるときと何ら変わりなく業務に当たってもらうことができました。MacやiPhoneはJamf Proで管理していましたし、すべての業務をクラウドベースで行える環境がすでに整っていたからです」

また、業務用パソコンをすべてMacにしたことによる、もう1つの大きな利点もありました。それは、Active Directory(AD)を前提としたWindows PCの管理が必要なくなるということです。

「たとえば、ADですとVPNを経由して社内ネットワークに接続しないと端末にポリシーを充てられませんが、Jamf ProによるMacの管理であればその必要はなく、端末がネットワークにつながってさえいれば遠隔からポリシーを充てられます。ADを利用するためにオンプレミスのサーバも必要ありません。たとえAzure Active Directoryに移行したとしてもクラウドを借りなければならないのでコストがかかりますので、それと比べれば今のJamf ProによるMacの管理のほうがとてもシンプルかつ、コストパフォーマンスが高いと思います」(堀井氏)

加えて、Macにしたことで「端末のリプレースを早められる」ことにもつながったと言います。

「MacBook Airは11万円前後ですので、以前使っていたWindows PCよりも安価ですし、リセールバリューが高いのが魅力です。今までは5年周期でリプレースしていたのですが、Macならば売却できますので、値段が下がらないうちに3年周期で変えていこうと思っています。端末のリプレース頻度を早くしたとしても、Jamf Proならばキッティングの手間はかかりませんので、そちらのほうが従業員にとって望ましいと思います」

グローカル戦略推進の今後 -人が使いやすいシステムを-

●Jamf Connectの導入も視野に

Jamf ProによるMacの日常的な管理に要する時間は、運用管理の手間が少ないことから1日で数十分あるかないかとのこと。以前のWindows PCの管理と比べると大きく時間を削減できたと言います。そして、それによって創出できた時間は、システム開発やクラウド導入、GCP(Google CloudPlatform)開発などに回すことで、さらなる業務改善に役立てることに費やしています。

「社内の情報インフラに関してはITを入れまくっているので、正直あまりやることがありません。今後は、お客様向けの管理システムなどのシステム開発を内製化していきたいと思っています。端末管理の面で強いてできていないことを挙げるとすれば、Jamf Connectの導入くらいでしょうか。GoogleWorkspaceによって各種クラウドサービスのシングルサインオンは実現できているので、Jamf Connectを使って同じID/パスワードをMacのログインにも利用できればベストです」(堀井氏)

なお、大和鋼管ではMacのエンドポイントセキュリティである「Jamf Protect」はすでに導入済み。従来使用していたセキュリティソフトがMacへのサービス対応を終了するタイミングで移行したと言います。

「Jamf ProtectはMac特有のセキュリティの脅威から端末を保護でき、使い勝手がとても優れています。たとえば通常のセキュリティソフトだと従業員のMacの画面にポップアップが通知されたり、設定変更する際に管理者アカウントを入れなければならなかったりして従業員を惑わせますが、JamfProtectであれば管理側から一括してポリシー変更等のコントロールが行えます」(堀井氏)

●人ありきのIT導入

最後に、グローカル戦略推進のバリューとミッションについて尋ねてみたところ、このような答えが返ってきました。

「『自分たちがやりたいこと』ではなく、『従業員のためになること』を重視しています。自分たちがやりたい仕組みを入れるのは簡単ですが、それをすると使ってもらえないことが多いからです。それで過去に何度も失敗したことがあります。従業員の意見を聞いて、従業員のためになる機能を提供することを心がけています」(堀井氏)

「従業員のためのシステム開発を行ううえではコミュニケーションがもっとも大切だと思います。工場の現場からグローカル戦略推進のある本部に入ってくることを緊張される方もいるので、私たちのほうから現場へふらっと行って立ち話をするようにしています。そうすれば本部にも気軽に来ていただけますし、実際に会議でも事前に話を共有しておくことで現場から出てくる意見も違ってくるからです」(中山氏)

こうしたコメントからもわかるように、大和鋼管がもっとも大切にする「人財」という最大の強みがコーポレートバリューとしてグローカル戦略推進のメンバーにも広く共有されているからこそ、たとえMacやJamf Proなどの新しいITツールを導入したとしても、それが失敗することはないのでしょう。製造業としていち早く先進的な「人ありきのIT導入」を次々と実現していくグローカル戦略推進の今後が楽しみです。