那須町教育委員会-1700台の「一人一台iPad」を管理 那須町のICT教育を支えるJamf Pro

栃木県那須郡那須町では児童生徒一人一台端末としてiPadを導入し、Jamf Proによって端末管理を行っています。 iPad向けのMDMとしてJamf Proを選定したのは、OSのアップデートに同日サポートすることが一番の大きな理由。 また、Self ServiceやデバイスグループといったJamfならではの機能とJamf API連携を効果的に用いることで、 端末の設定や運用管理、年度更新の実施などを円滑に行いながら、教育現場におけるICT教育の実践に活かしています。

iPad1,700台の大規模管理
先進的なICT教育推進の支援
Selfserviceを活用したアプリ管理

GIGA端末としてiPadを選定した理由 -2016年度から開始していたiPad導入-

●モデル校での実績とノウハウをGIGAでも継承

栃木県那須郡那須町(以下、那須町)では、文部科学省が推進する「GIGAスクール構想」の後押しもあり、2021年度から一人一台iPad を活用した学びをスタートしています。「那須町では、児童生徒の個別最適化された学びと、社会とつながる協働的な学びを進め、自立した那須町の子どもたちを育てるために『一人一台タブレット端末』を導入します」そのように書かれた那須町教育委員会からの保護者宛のお知らせが 那須町のホームページに掲載されたのは2020年末のことですが、那須町で教育ICT化の取り組みを開始したのはそれより遥か前、2015 年に遡ります。ほかの自治体に比べて遅れを取っていたICT整備について、先行モデル校を参考にしながら検討を開始し、2016年には町内の高久小学校をモデル校として30台のiPadを導入。そこから町内の全児童への学習用端末の導入が進められました。

那須町は、一人一台iPadの導入の意義や保護者向けパンフレット、 iPad利用のルールなどの資料をホームページで公開しています。 https://www.town.nasu.lg.jp/0028/genre1-1-001.html

「まずはモデル校での取り組みをスタートし、年を追うごとに徐々他校へも横展開していきました。その流れで現在の町長が町独自で一人一台環境の実現を打ち出していましたが、その後、2019年12月に GIGAスクール構想が発表されたので、そのサポートを受けて2021年 度当初に一人一台端末の導入を完了させました」(那須町教育委員会 学校教育課 プログラミング教育推進スーパーバイザー 星野尚氏)
那須町で導入したタブレットは第6世代~第8世代のiPadで、台数は あわせて1,700台ほど。すべてLTE通信が可能なセルラーモデルです。 端末選定にあたってGoogleのChromebookやWindowsタブレッ トも検討したそうですが、モデル校での導入から積み上げてきた実績 やノウハウを大事にすべく、iPadを引き続き選定しました。

那須町教育委員会 学校教育課 プログラミング教育推進スーパーバイザー 星野尚 氏

●セルラーモデルのiPadの効果とアプリ&クラウドの活用

そもそも2016年にモデル校で学習用端末を導入する際にiPadを選んだのは、当時の那須町教育委員会の指導主事が、ある先行事例に大きな感銘を受けたからです。「現在は株式会社情報通信総合研究所に所属される平井聡一郎氏 が、茨城県古河市教育委員会に在籍されていたときに行っていた授業改革の事例です。セルラーモデルのiPadと『ロイロノート』というアプリを活用されていたので、それを那須町でも参考にしました。当時セルラーモデルのタブレットはiPadしかなかったと思いますし、『ロイロノート』はiPadアプリでしたので自然とiPadを選択した形です」

また、セルラーモデルの端末にこだわったのは 、教育長がいつでもどこでも学べる環境を整えることを重要視していたこと、そして最初のモデル校で教員がその効果をすぐに実感したことが理由にあります。「校外学習で遠足に行ったとき、帰りのバスの中で子どもたちが自発的にiPadで撮影した写真をノートにまとめたり、発表スライドを作って いたりしたのです。セルラーモデルだったからこそ、写真を撮影して終わりにはならなかったのだと思います」

現在の授業づくりの中では「Google Workspace for Education」 を軸にしながら、ロイロノートや「Qubena」というAI型教材、iMovie をはじめとするApple純正アプリなどのさまざまなアプリを活用しています。また、教員がOneNoteなどのMicrosoftのサービスを使いたいという場合に備えて「Microsoft 365 A1」も導入しています。「Google Workspace、Microsoft 365、Apple純正アプリをはじ め、さまざまなサービスを使える環境をできる限り整えておくことで、 先生のニーズに応えられるようにしています。有用なサービスを自由自在に組み合わせて授業に効果的に活用してほしいです」

那須町の町内の全小中学校では、児童・生徒が一人一台iPadをさまざまな学習に用いながら、Society 5.0時代にふさわしい新しい学びをスタートさせています。

iPadの端末管理に選んだJamf Pro -運用課題をJamfの機能で解決-

●大きな課題だったアプリのインストールとOSのアップデート

一人一台端末を配備するにあたり、なくてはならないのがiPadを一括管理するためのMDMです。那須町ではGIGAスクール構想の基本パッケージ項目に含まれるMDMとしてJamf Proを選択し、町内の全小中学校で利用するiPadの管理を行っています。 「以前はMDMを導入していませんでしたが、実際に管理・運用をしていく中でいろいろな課題が出てきました」 中でも大きかったのが、各iPadへのアプリのインストールです。GIGAスクール構想以前はiPadを共有端末として利用していたため、Apple IDは児童生徒ではなく、iPad毎に取得していました。必須アプリはキッティング時にiPadにインストールしてある状態でしたが 、教員が新しいアプリを利用したい場合は許可申請を行い、教育委員会が承認したものをICT支援員がインストールする必要があったのです。しかし、ICT支援員が学校へ訪問するのは長い場合だと申請1週間後になってしまうため、アプリが許可されても教員がすぐに利用できないという問題が生じました。

アプリのインストールはApp Storeから行うのではなく、教育委員会が承認した ものをJamf ProのSelf Serviceに登録することで、教員やICT支援員がワンタップでダウンロードできるようにしています。

また、もう1つの大きな課題としてiPadOSのアップデートがありました。iPadでOSをアップデートする際に管理対象Apple IDではなく一般のApple IDを利用していると、 Apple IDの2段階認証の確認コードの入力を求められる場合 があります。しかし、ここでiPadに入っているSIMカードの電話番号を入力してしまうと、iPadはSMSを受け取れない仕様のため、確認コードがわからなくなってしまうのです。「iPhoneなどの別のデバイスに確認コードが届くようにする必要がありますが、アップデート作業は現場の先生にお願いしていたので、そのことを知らずに素直にiPad内のSIMカードの電話番号を入れてしまい、認証のための確認コードが届かなくなり、iPadが使えなくなるということが起こりました。 私がAppleのサポートに連絡してなんとか解決できましたが、台数の限られるiPadが一定期間使えなくなるのは大きな問題でした」 これは、台数が少なかった当時、Appleの推奨する管理対象 Apple IDを使っていなかったために生じた問題です(現在は、管理対象Apple IDを使用し、Jamf Proでアップデートを管理)。

Appleの正規代理店と連携して見積や発注、銀行振込からApple School Managerでの購入、そしてJamf Proでの配信までをスムースに行える仕組みを構築することで、特定の学校だけで必要なアプリもスムースに導入可能にしています。

●JamfのSelf Serviceでスムースにアプリを配信

こうした問題は、Jamf Proを導入したことで見事に解決しました。アプリのインストールに関しては教員やICT支援員 がApple IDを入力してApp Storeからダウンロードするの ではなく、教育委員会が許可したアプリをJamf Proの「Self Service」へと登録。教員やICT支援員はそこから許可されたアプリをワンタップで必要なときすぐに入手できる環境を整えました。「アプリの導入をすぐにできないことが一番の課題でしたので、Self Serviceはとても重宝しています。申請して承認されればアプリを即日配信できるので、先生方はすぐに授業へ取 り入れることが可能です」また、Jamf Proを使うことで、特定のアプリを使いたいという要望が あったときにスムースに個別対応できるようにもな り ま し た 。特に有料アプリの場合は、ほかの学校では使わないことも考えられるため、全校分のライセンスは購入できません。その場合は、申請が来たときにアプリの単価を教えて学校側で予算を確保してもらい、Appleの正規代理店と連携 して学校ごとに用意した振込口座への入金を確認したあと、 管理者のApple IDにVPPクレジットをチャージしてApple School Managerでアプリを購入し、Jamf Pro経由で個別配信しています。 「全校で必要としないからNGとするのではなく、現場の先生が使いたいというものはできる限り提供したいと思ってい ます。こうした有料アプリの購入フローを整えているので、有用なアプリを導入して校務効率化に寄与できればと考えてい ます。また、先生方向けに有償アプリ導入までの一連の流れをマニュアル化して全学校の教員が見られるようにしています」

●Jamf Proを使った効果的なOSアップデート

2つ目の大きな課題であったiPadOSのアップデートに関しては、iPadをApple IDなしで運用する方法へと切り替えることJamf 導入事例で解決しました。Jamf ProがあればApple IDがなくてもアプリの配信が行えるからです。そして、iPadOSのアップデート はJamf Proに搭載されているリモートコマンドを使ってOSの アップデート(更新プログラム)だけが自動的にiPadにダウン ロードされるようにし、あとは児童生徒がアップデート作業を行う運用へと切り替えました。

Jamf ProのWebhook設定を利用して、iPadのOSがアップデートされたらGoogle Chatへ通知が届くようにすることで、アップデート状況の把握を容易に しています。

「パスコードが設定されているiPadの場合は強制的にOSを アップデートすることはできず、アップデートを実行するため にユーザにアップデート適用をしてもらう必要があります。もちろん、Jamf Proを使ってあらかじめパスコードを消去すれば強制アップデートできますが、そうすると今度は再度パスコードの設定作業が必要となります。この運用方法だとかえっ て作業の手間が増えるので、ダウンロードのコマンドだけを端末に送って、アップデートの仕方は動画を作って共有しています。将来、子どもたちが自分の端末を持ったときに、アップデートの仕方を知らないと困るので、児童生徒自らできるようになってほしいという思いもあり、こうした運用にしています」

那須町教育委員会に届けられたGIGAスクール端末としての大量のiPad。これ だけの台数があると手動でのキッティングは難しく、Appleの自動デバイス登録 の仕組みとJamf Proが役立っています。

●最新OSの同日サポートがJamf Pro選定の理由

また、iPadOSのアップデート時にはSelf Serviceの機能も役立っています。Self Serviceはアプリや構成プロファイル、環 境設定等を登録できるだけでなく、メッセージを表示することもできるため、それを使って児童生徒に端末のアップデートを促すのです。「『OSをアップデートしてください」とメッセージを送ったあと、Jamf ProのWebhook設定を使用して、iPadのOSがアッ プデートされた際に通知がGoogle Chatへ届くようにして います。このようにすれば次々と通知が届くので、アップデー ト状況を簡単に把握することができます」 このように那須町教育委員会ではJamf Proのさまざまな機 能を活用することでOSのアップデートを迅速に行うようにし ていますが、それは端末管理において欠かせない重要事項だからです。「たとえば、古いOSでアプリに不具合が生じて動作しないときに、OSのアップデートに迅速に対応できないと学校現場の授業が止まってしまいます。先生方や児童生徒をそうした理 由で待たせたくはないのです」 数あるiPad向けのMDMからJamf Proを選択した理由もまさにここにあります。「JamfProを選んだのは、AppleのOSアップデートに同日対応する点を一番の魅力に感じたからです。最新OSには最新 のセキュリティアップデートが施されていますし、先生方にとって有用な機能が新たに搭載されています。たとえば、 iPadOS 15から可能になった『スクリブル』がその一例です。 Apple Pencilを使って手書きした文字が自動的にテキスト変換されて文字入力できるこの機能は、キーボードが打ちづらく感じる先生にいち早く使ってもらいたいものでした」

Jamf ProによるiPadのキッティング -効率化した初期設定と年次更新-

●Appleの自動デバイス登録とJamf Proの連携

GIGAスクール構想前はMDMなしで行っていたiPadのキッ ティング作業も、現在はJamf Proを活用して行っています。 具体的には、Apple School Managerの登録や設定、Jamf Proの設定はあらかじめ教育委員会が定めた管理ポリシーに したがってベンダーが行い、初期設定やアプリが適用された状態で届けられます。そして、スクリーンタイムをはじめとする そのほかの一部の設定について、ICT支援員を総動員して教育委員会で行ったあと、各学校へと届けます。「GIGAスクール構想をきっかけに導入されたiPadは、Apple の『自動デバイス登録』に対応した端末だったため、基本的 にはネットワークにさえ接続できれば自動でJamf Proの監 視下に入り、必要な設定を自動で適用できました。しかし、自動デバイス登録に対応していない過去のiPadは、MacBook に接続して『Apple Configurator』を使ってMDMへ登録す る作業を行わなければならず苦労したことを覚えています。 Appleの自動デバイス登録の仕組みの素晴らしさを実感しましたし、これだけの台数の端末の初期設定をMDMなしで行 うことは到底想像できません」

●年次更新に役立つJamf Proの「デバイスグループ作成機能」

また、一人一台iPad環境では卒業生が利用していた端末のデータを消去し、再設定して新入生に渡すための年次更新作業が発生しますが、この際にもJamf Proが円滑な実施に貢献しています。 「今年は小学6年生のiPadが小学1年生に、中学3年生のiPadが中学1年生に回る形になります。そこで、Jamf Proの『スタティックデバイ スグループ』の機能を使ってそれぞれの卒業生のiPadのグループを作成して、遠隔から一括でデータを消去します。そしてJamf Proのインベントリのプリロード機能を使って『このiPadはこの学校の何番端末』 とCSVファイルを書き換えて流し込めば新入生の端末として割り当て られ、すぐに使える状態になります。学校現場で先生方とICT支援員が iPadの初期化と数タップだけのセットアップ作業を行うとiPadのインベントリ情報に基づいて必要な初期設定が自動で適用されるので、とても簡単に年次更新が行えます」

年度更新作業には、 Jamf Proのデバイスグループ作成機能を利用してiPadのグループを作成。遠隔から一括消去したあと、 インベントリプリロード機能を使ってCSV ファイルを書き換えるだけで、新入生の端末としてすぐに利用できるようにしています。

また、デバイスグループの機能はOSのアップデートを配信する際にも役立っています。「OSが最新のグループ、1つ前のグループなどとOSのバージョンごとに端末を分け、それぞれに必要なアップデータのダウンロードコマンドを送っています。アップデート作業がまだ浸透していない学校もあるので、そのように粘り強くアップデートを促す必要があるのです」

Jamf Proで作成した1つの構成プロファイルをベースとして配付し、ポリシー変更などが生じたときは追加の構成プロファイルを配付することで対応しています。

運用後に役立つJamf Proの各種機能 -那須町独自の効果的な活用方法-

●ポリシー変更には構成プロファイルの別配信で対処

那須町ではiPadの初期設定にあたり、運用ポリシーに従ってJamf Proで定めた1つの構成プロファイルを全校共通で用いています。運用ポリシーは比較的緩やかで厳格な機能制限は行っているものではありませんが、実際に管理・運用していく中ではいくつかのポリシー変更を余儀なくされることもあります。「そうした場合でも、Jamf Proを使えば追加の構成プロファイルを配付して、すぐにiPadに一斉適用できます。ベースの構成プロファイルを変更するのではなく、別の構成プロファイルとして配付することで、その構成プロファイルが必要なくなったときには削除するだけで済みます」

Webフィルタリングには、Jamf ProのWebコンテンツフィルタにURLを登録し、 それを構成プロファイルとして配付することで制御を行っています。

●Jamf ProのWebコンテンツフィルタを活用

追加した構成プロファイルの1つには、Webコンテンツフィルタリングに関するものがあります。当初設定していたiPadOS 純正のコンテンツフィルタリングでは授業で閲覧できないWebサイトがあったため、それらのWebサイトを特定してJamf Proで構成しているWebコンテンツフィルタ設定に許可URLを追加しています。「どのようなサイトがブロックされて困っているかは、先生方 や児童生徒に対してJamf ProからGoogleフォームのWeb クリップを配信して、そこに書き込んでもらいました。そのほとんどが学習で使っているサイトで、中には児童生徒の熱意が 伝わってくる受験勉強のサイトなどもありましたので、ヒアリ ングしてみて本当によかったと思います。現在はブロックを解除してほしいWebサイトをGoogleフォームに登録すると教育委員会のGoogleチャットスペースに自動投稿され、それを見た教育委員会スタッフが確認・検証を行い、問題なければ構成プロファイルに随時登録するようにしています。もちろ ん、プロキシ経由で制限回避を行うサイトなど、明らかに学習に関係のないものは逆にブラックリスト化してブロックするようにしています」 また、運用後に顕在化してきた別の問題として、他の自治体でも懸念されている「LTE通信量問題」がありました。那須町教育委員会や学校側は保護者や児童生徒に対して、家庭では使用量に限りのあるLTE回線を使わずにWi-Fiを利用するよう求めていますが、自宅でWi-Fiの設定がされていないなどの理由からLTE回線の通信量が増大することがあったのです。 そのため、Wi-Fiの接続を強制にするなどの構成プロファイル を追加して対策してきました。

Jamf Pro APIを活用した独自のプログラムを作成し、LTEのデータ使用量が一定の値を超えたデバイスを抽出。そのリストを各学校の管理職の先生方に配布することでLTEの使い過ぎを防止しています。

●Jamf APIを活用して独自のプログラムを自作

加えて、LTE通信量問題に関しては、独自の取り組みも行っています。 「電話番号と通信量が記載されたお知らせメールが携帯キャ リアから毎日届きます。ただし、電話番号を見ただけではどこで使用している端末かを特定できないので、それを解決するプログラムを自作しました。Jamf Proに登録されているイン ベントリ情報から端末のシリアル番号と電話番号とアセットタ グを含んだ情報をJamf Pro APIを使用してGoogleスプレッドシートに抽出して、それを通信量のお知らせメールの電話 番号と自動的に紐づけることで端末ごとの通信量を特定し、 通信量の多い順に並び替えたうえで各学校の管理職の先生 方に週に2回(教育委員会スタッフは毎日)配信しています」 このプログラムを開発してからは「こんなに使ってしまった!」 と後追いで対応する状況から脱することができ、日々通信量を確認でき、「まだこれくらいだから大丈夫!」と見守れるようになったと言います。また、もし使い過ぎている場合は学校側 でも限度を越さないよう事前に指導を入れることが可能となりました。 しかし、それでもなお特殊な事情によって、LTEを使い過ぎてしまう場合は強制的に止めるしかありません。「そこで考えたのがiPadの紛失モードを利用する方法です。 紛失モードをオンにすると端末がロックされてそれ以上使 うことができなくなりますので、Googleスプレッドシートに対象端末を登録しておき、Jamf APIとGoogle Apps Script(GAS)を連携させることで指定した時間に紛失モードをオン/オフできる仕組みを整えました。LTEを使い過ぎてしまう場合の最後の手段として利用することを想定していますが、こ のような機能を使わずとも児童生徒さんが自分でコントロー ルできるようになって欲しいと願っています」 なお、将来的にはこの仕組みを先に挙げた通信量を特定するプログラムと連動させることで、リストの中で一定の通信量を超えた端末に対して自動で何時何分に紛失モードがオンにされるようにしたいと言います。

●各iPadの情報の可視化や紛失時の特定にも利用

那須町教育委員会独自のJamf Pro活用はこれだけにとどまりません。毎日の運用の中で多く発生しがちだったのが、パス コード忘れやロック解除のトラブルですが、ここでもJamf API を活用したプログラムを独自に作成しています。

「パスコードを変更してうっかり忘れてしまったり、iPadのボ イ ス オ ー バ ー モ ード に 入 って し まって ロック が 解 除 で き な く なったりしてパスコードをクリアしてほしいという依頼が頻繁にあります。そこで、GoogleAppsScrip(tGAS)とJamfPro APIを連携させることで、Googleスプレッドシートに端末の IDを入れてボタンをクリックするだけでパスコードをクリアできる仕組みを作成しました。これがあれば現場の先生や ICT支援員が対処できるようになるので、本当に楽になりました」 また、そのほかのJamf API活用方法としては、Jamf Proから配信されているアプリ以外のアプリを検出できるようにすることで学校での利用が問題視されるアプリを特定したり、 想定以上に頻繁に起こる端末の紛失時にiPadを紛失モードにして遠隔から位置情報を確認したり、「自動デバイス登録」で追加登録された端末(新規端末や修理交換端末)を自動検知したりするのにも役立てています。LTE端末を入れたことから那須町では持ち帰り学習が前提となっているので、遠隔からでも可能なこうしたMDMによる安全管理は欠かせないと言います。

プログラミングの素晴らしさを一人でも多くの人へ届けたいという思いから、星野氏は町内会や学校などで精力的に活動を行っています。

那須町のICT教育を支えるキーパーソン -教育委員会の役割と今後の展望-

●プログラミング体験を広めたいという熱い思い

那須町においてこうした取り組みを支えているのが、高校教員を経てエンジニアに転身後、インターネットサーバの設計構築や産業技術総合研究所における特許技術の研究開発などを行い、ITベンチャー企業の立ち上げメンバーの経歴を持つ星野尚氏です。那須町教育委員会では5年前からプログラミング教育推進スーパーバイザーとして活躍しています。「代表を務める行政書士事務所と小学生からのICTプログラミング教室『那須塩原クリエイティブ・ラボ』の活動を開始してからしばらくして那須町のある小学校の教育コーディネーターさんの依頼を受けて学校のパソコンクラブの手伝いをボランティアで始めたのですが、そのときに起きたある出来事が那須町教育委員会で仕事をするようになったきっかけです」

プログラミングデイin那須町という取り組みをNPO法人 CANVASさんと一緒にコーディネートしていたのですが、その活動の一環で外部講師を招いて行ったMinecraftのプログラミング授業を行った際のこと。それまで不登校だった児童が、その日のワークショップに、参加してくれたのです。

「当時の教育委員会の方がこれは何かが変わる!とお感じになられて、一緒に仕事をしませんか?と誘ってくれたのです。 私はあとからこの出来事を知ったのですが、その児童のためにきっかけづくりを行えたことが嬉しかったので町の教育活 動の一助になればと思いお引き受けすることにしました」 その後は小学校におけるプログラミング教育の必修化が目前に迫っていたため、星野氏はその準備も兼ねて、町内のお祭りの際にプログラミング体験コーナーを作ったり、各学校をめぐりながらプログラミング体験を届けるプログラミングデイを企画したりして、プログラミング体験を広げていく地道な活動を行いました。

「教員の経験があるので学校の先生の気持ちもわかりますし、プログラミングもわかりますので、そうした立場から新しいICT教育を少しでも多くの児童生徒に届けたいと思いました」

●ICT教育における教育委員会の役割

那須町における一人一台端末環境ならびにその運用管理に は、こうした星野氏の「現場目線」のスタンスが随所に見て感 じ取れます。Jamf Proを活用した迅速なアプリの配信やOS のアップデート、Webコンテンツフィルタリングの解除などはそのほんの一例です。

「『先生のやりたい ! 』をすぐ実現するための仕組み作りをしなければいけないとずっと思っています。自分も教員だったのでよくわかりますが、すぐに先生方に必要なものを届けないと、待っているうちに気持ちが萎えてしまいます。そしてそれが積み重なっていくと大きな壁となり、ICTは使わなくていいという理由づけになってしまうのです」また、一人一台端末の環境においてはセキュリティに配慮して端末制限を厳しくする自治体もある中、星野氏はそれに異を唱えます。

「先生方が児童生徒の学習のために使えない状態で端末を配っても意味がありません。それは、逆に使わない理由を増やすだけだと思います。ですから、先生方が『できない理由』を 並べないようにするための環境を整えることが、教育委員会側に求められるのです」

那須町の小中学校におけるアプリ活用の中で、星野氏はプログラミング担当をしていることもあり、さまざまなプログラミングツールを試しながら、そうした環境整備を積極的に行っています。

「Scratchのサイトを表示してBluetoothデバイスの制御を可能にする『Scrub』というアプリがあります。また、このアプリで別のScratchのサイトを表示させればさらにAIと連携できるなど実に有益なプログラミング教育を行えます。しかし、この『Scrub』はMDMによる配信に対応していなかったので、日本人の開発者の方にTwitter経由で直談判しました。そ うしたら短期間の間に対応していただけたので、現在は標準ツールの1つとして採用しています」

●学校主体の管理とJamf APIを活用した自動化の推進

GIGAスクール構想によって実現した各小中学校における一 人一台端末環境はまだ始まったばかり。整備・導入を終え、こ れから本格的な活用フェイズへと入り、ICT教育の充実が真に求められます。そうした中、星野氏に今後の展望について尋ねました。

「全国的に見ると教育委員会側で端末を集中管理したがる傾向にありますが、私はむしろ分散管理して、もっと学校が主体的になるべきだと思っています。アプリの選定に関しても、本 来はそれを利用する学校や先生が主体的に行ったほうがいいと感じます。もちろん、これは町の教育委員会の仕組みに関 わりますので、時間をかけて話し合いをしながら実現できるようしたいです」

また、今後はさらにJamf APIを活用した管理・運用の自動化と効率化の推進や、現在は主にGoogleやApple、Microsoftなどクラウドプラットフォームごとに異なるアカウントをMicrosoft Azure ADを利用することで統合管理を行っていく予定です。

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